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チーズの品質評価について考える~酪恵舎18年の取り組み | 【白糠酪恵舎】豊かさ育むチーズ物語

井ノ口視点

チーズの品質評価について考える~酪恵舎18年の取り組み

 品質を評価するということはいったいどういうことなのだろうか?チーズは原料の乳質が日々変化するため、年間を通じていつも同じものはできない。しかしながら作り手としてはできるだけ一定の品質のものを作りたいと思っている。
 世にオールジャパンチーズコンテストとか、チーズアワードとかいったコンテストがある。以前オールジャパンのコンテストには出品したことがあるが、評価基準は曖昧で、参加してもチーズの品質は向上しないと思ったので今は出品していない。入賞したチーズを勉強と思って食べたりしたが、あまり美味しくなかった。それは当然で食べたのは入賞した工房のチーズではあるけれど入賞したチーズではない。入賞したチーズはきっと本当に美味しかったのだと思う。
 10年以上前に共働学舎の宮嶋さんと一緒に作り手のよるチーズの品質評価に取り組んだことがあるが、あまりにもたくさんの種類のチーズを一緒に評価できず、評価シートばかりたくさんできて結局、品質評価の会は雲散霧消した。
当時、共働学舎にチーズ指導を行っていたフランスのジャン・ユベール氏は品質評価に流通を絶対に入れるな!と言っていた。サホロで行った品質評価は流通関係者がいたためにユベール氏がへそを曲げ、1時間以上遅れた。さらにそこに酪恵舎のモッツァレッラを見つけて「なんでモッツァレッラがあるんだ!俺はモッツァレッラを評価できない。はずせ。」と言われこちらも「そう言われても・・・」ユベール氏の言うところの品質評価は作り手の自分たち自身で製造技術の精度を正しく評価できなければいけない、ということだった。つまり流通の人は売れるチーズを指向するから流通が入ると製造の技術ではなく、売れるかどうかが基準になってしまう。そうすると売れるものには一定の指向性があるからみんな同じチーズになってしまう。例えばこんな話がある。チーズを作るのにL・ラクティスという乳酸菌がある。世界で最も大きな乳酸菌メーカーはデンマークのクリスチャン・ハンセン社であるが、世界の様々な乳酸菌メーカーのラクティスの遺伝子を解析するとハンセン社と同じ遺伝子のものばかりになっているという。つまり、ハンセン社のスターターは世界で一番売れているからハンセン社のスターターを使ったチーズが一番売れているということになり、結果他社も右習えになっているという。これはきいた話で真偽は不明。オールジャパンでの入賞チーズもハンセンのスターターばかりだったりして・・
それでは地域にある伝統的なチーズの製造技術を守って行けない。守るためには地域が培ってきた技術を正しく評価し、継承していかなければならない。AOCといわれる原産地呼称制度はそうして生まれた。 EUではDOPという名前が付けられている。ユベール氏は元AOCの会長だった人である。この原産地呼称制度では対象となるチーズは決められている。例えばトーマ・ピエモンテーゼというチーズはこのように作り、製品はしかじかであるといったことが決められている。そしてコンソリッツィオという管理組織が認定する。当然、品質評価もトーマとして妥当かどうかということが中心課題となる。
 イタリア研修後の僕たちはとにかくイタリアのトーマと同じものを作りたいと思い、同じ物こそが品質の高いものだと思っていた。

2011年に北海道食品加工研究センターの協力で、イタリアのチーズと酪恵舎のチーズの風味や香りはどれほど違うのか?調査した。日本の手つくりチーズ工房はたいていモデルになるチーズがある。酪恵舎はイタリアで技術をまなんだから当然、そのモデルとなったチーズがある。そしてこれも当然ながら同じように作りたいと思っている。それで調査してみたわけである。
これでわかったことは風味についてはそれほど遜色ないが、香りは圧倒的にイタリアが強く、日本は弱い。タレッジョとロビオーラの比較ではプロピオン酸がタレッジョでは顕著だったのにロビオーラにはほとんどない。ガスクロマトグラフィーで分析したピーク面積ではタレッジョよりロビオーラの方が大きいことがわかった。いずれにしても僕たちは香りを如何に強くするか?という課題に取り組むことになった。
 そこで乳酸菌やら乳由来やらの酵素をたくさん用意すれば風味も香りもよくなって品質があがるだろう。そう考えて純度の高い粉末のレンネットより液体やペーストの方がいいのではとか、タンパク分解力の高い乳酸菌を使ったほうがいいのではとか調べているうちにL・ヘルヴェティクスにたどり着いた。そしてシエロ・インネスト法によって旨味や香りを以前よりも強くすることに成功した。しかし、旨味や香りが強ければ品質の高いチーズだろうか?確かに日本人は旨味が大好きだから旨味の多いチーズを評価するけどそれをもって品質が高いとはやっぱり思えない。さらに言えばL・ヘルヴェティクスが産生するアンジオテンシン転換酵素阻害ペプチド(血圧をあげる酵素を阻害するので血圧が下がる)は熟成が進めば分解される。それどころは血圧をあげるチロシンが産生される。グラナ・パダーノでも熟成中にはグルタミン酸が生成されるが、1年を過ぎると消失する。旨味のピークは15か月くらいだからどっちがいいのか?わからない。旨味のあるなしが品質を決定するというのは如何にも稚拙な感じがする。

チーズ職人

  • 白糠酪恵舎 代表 井ノ口 和良
             

    福岡出身。18歳で北海道に渡り帯広畜産大学を卒業後、道東へ移住。 酪農と関わり暮らして39年。夢は原材料100%の純国産チーズを作って広めること。

  • 及川 由博

    生まれも育ちも生粋の北海道人。25歳で井ノ口代表と出会い、チーズ作りの虜に。酪農の豊かさを共有しあえる仲間づくりに奮闘中。

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